2011年5月30日月曜日

警官と僕

地震の数日後、
道路はガソリンを求める車の列で埋め尽くされていた。
その列の狭い隙間を先を急ぐ車が通る。
今までに見たことの無い状況だった。

そんな時に道路を渡ろうとする"ある"おばあさんを見かけた。
僕はおばあさんに「大丈夫?」と声をかけ、
小さな肩に手をかけた。
「ありがとうございます。目が悪くて車も多いし渡れないのよ。」
「ちょっと待ってね」と言って車の様子を伺うが、
僕ですら状況が飲み込めない程車の通りは激しく、
善意を求めようにもなかなかそんな事も思っていられなかった。
ここで事故に遭う何て洒落にもならねーぞと、
不埒なことを考えたその時、車の動きは緩やかになり、
そのうちに止まった。
パトカーだった。
パトカーは僕らの前で止まり中から一人のおじさん警官が姿を現した。
顔を見て直ぐに誰かと気付いたのは、
僕はその警官がとても嫌いだったからだ。

震災以前のある日の夜。
僕が家についたからと自転車のライトを消すと、
ちょうどその警官が近くにいて「ライトをつけなさい」と言った。
僕は無視をしたが、
ついにその警官は降りて来て「ライトをつけなさい」と機械的に言った。
「ここが僕の家なんですけど、庭の数メートル前でどうしてライトをつける必要が?」
「ライトをつけなさい。次からきおつけなさい」
意味が分からない。
非を認めようとしない犬め!とイライラし、
以来そいつを見かける度に嫌な気持ちになった。

嫌な人に会った。
しかしその警官は僕らの前に来て
「ごったがえしてっからな。ばあちゃんきおつけねぇと轢かれちまうぞ。兄ちゃんに掴まって送って行ってもらえ」と言って、止まる車達にお辞儀をして僕らを道路の反対側に渡らせてくれた。
警官は車に乗ると言った。
「あんちゃんばあちゃんの力になってな。今は助けあわねぇとやってられねぇがら!」

ポジティブな力は強い。
昔年の恨みもその一瞬で仲間に変わる。
こうした一瞬一瞬が今日も続いている。

おばあちゃんは目的地に着くと言った。
「ありがとうございます。あれ○○ちゃんかい?」
そう、おばあちゃんは僕の子供の頃からの知り合いであり、
ばあちゃんの親友だった。
そのおばあちゃんは目がとんでもなく悪く、
そんな僕が隣にいても気付かないのだ。
僕はてっきり気付いているかと思ったが・・・。

写真は東京は八王子方面。
僕や家族にはとても縁がある場所であり、
良く家族で通った。
その時も僕はばあちゃんに手を引かれ、引いていた。
引かれる子供から、引く大人に、
我ながらよくも成長したと思う。