地震の数日後、
道路はガソリンを求める車の列で埋め尽くされていた。
その列の狭い隙間を先を急ぐ車が通る。
今までに見たことの無い状況だった。
そんな時に道路を渡ろうとする"ある"おばあさんを見かけた。
僕はおばあさんに「大丈夫?」と声をかけ、
小さな肩に手をかけた。
「ありがとうございます。目が悪くて車も多いし渡れないのよ。」
「ちょっと待ってね」と言って車の様子を伺うが、
僕ですら状況が飲み込めない程車の通りは激しく、
善意を求めようにもなかなかそんな事も思っていられなかった。
ここで事故に遭う何て洒落にもならねーぞと、
不埒なことを考えたその時、車の動きは緩やかになり、
そのうちに止まった。
パトカーだった。
パトカーは僕らの前で止まり中から一人のおじさん警官が姿を現した。
顔を見て直ぐに誰かと気付いたのは、
僕はその警官がとても嫌いだったからだ。
震災以前のある日の夜。
僕が家についたからと自転車のライトを消すと、
ちょうどその警官が近くにいて「ライトをつけなさい」と言った。
僕は無視をしたが、
ついにその警官は降りて来て「ライトをつけなさい」と機械的に言った。
「ここが僕の家なんですけど、庭の数メートル前でどうしてライトをつける必要が?」
「ライトをつけなさい。次からきおつけなさい」
意味が分からない。
非を認めようとしない犬め!とイライラし、
以来そいつを見かける度に嫌な気持ちになった。
嫌な人に会った。
しかしその警官は僕らの前に来て
「ごったがえしてっからな。ばあちゃんきおつけねぇと轢かれちまうぞ。兄ちゃんに掴まって送って行ってもらえ」と言って、止まる車達にお辞儀をして僕らを道路の反対側に渡らせてくれた。
警官は車に乗ると言った。
「あんちゃんばあちゃんの力になってな。今は助けあわねぇとやってられねぇがら!」
ポジティブな力は強い。
昔年の恨みもその一瞬で仲間に変わる。
こうした一瞬一瞬が今日も続いている。
おばあちゃんは目的地に着くと言った。
「ありがとうございます。あれ○○ちゃんかい?」
そう、おばあちゃんは僕の子供の頃からの知り合いであり、
ばあちゃんの親友だった。
そのおばあちゃんは目がとんでもなく悪く、
そんな僕が隣にいても気付かないのだ。
僕はてっきり気付いているかと思ったが・・・。
写真は東京は八王子方面。
僕や家族にはとても縁がある場所であり、
良く家族で通った。
その時も僕はばあちゃんに手を引かれ、引いていた。
引かれる子供から、引く大人に、
我ながらよくも成長したと思う。