だから初めて一人で出かけた日は朝まで最高に楽しんだ。
楽し過ぎてライブハウスからでた朝もそれはまた最高だった。
酔っぱらいや鋭い人、流れる様な髪の女性に石けんの匂いがぷんぷんするおっさん。
最高だ。
僕は東京に来たのだ。
そのまま西武新宿駅へ向ったはずだがどれだけ進んでも駅に着かない。
僕は道に迷ったのだ。
時間ばかり進んでどんどん知らない方向へ行く。
僕は自分の中の恐怖に気付いてしまい、それから新宿の朝は一変した。
全ての人間が悪い人に見え、飛んで行くカラスや猫さえも演出する。
本当にドキドキと心臓の音が聞こえてくる程。
そして声をかけられた。
「何してんの?」
そこにいたのは男のオネェさんだった・・・。
本物だった。
僕は仕方が無いから道に迷ったことを素直に伝えた。
田舎者が想像できる最悪の出来事を予想しながら。
するとその人は「ついてきて。あたしも同じ方向だからさ」と僕を引っ張る。
ああ、、、完全に最悪だ。
道が分からないから自分が何処へつれていかれているかもわからない。
色んな質問をされ、勝手に一人で笑っている姿がまた怖かった。
僕は「ええ・・・」とか「はぁ・・・」とか言っていたと思う。
そこであの人は言った「あんたなまってるわね。東北?」
僕はなんだか身元がばれる気がして怖かったが渋々「福島です」と答えた。
すると「だったら最初に言いなさいよ!!あたしも福島なのよ!ガッハッッハ」
それからは駅までズーズー弁で歩いて故郷の話をした。
今でも後悔している。
どうしてそのとき連絡先を交換しなかったのか。
彼女の故郷は福島の何処だったのか。
東京は地下鉄が暗かったり、売り切れが目立ったり、おかしな節電の張り紙に
少し異常な感じがした。
東京に住む友達や家族や親戚が不安に駆られるのも無理はない。
僕も外国人の友人へ一度帰った方が良いと言った。
その彼や彼女は言った「ここはTokyoなのにこんなに暗いのは変な感じがする」
離れていればいる程、結局の所現実はどんどん見えなくなってくる。
僕はその出来事が自分の故郷で起きていると言う事に少し安堵した。
僕らは見て聞く事ができる。
さすがに真っ先に福島にやってきた人達はまるで何ともない様子だったけれど。
コーヒーショップやレストランに入ると何時もは聞こえない言葉が聞こえる。
そう、僕らは最早戻れない歴史の一部なのだ。
連れてこられた奴隷のジャラジャラという鎖の音が聞こえるようだった。
夜、友人と新宿へ行った。
やっぱりここが好きだ。
今はなき西新宿のレコード屋では
ロックンロールが人生においてどれだけ無駄かを学んだし
色んな人に声をかけ、色んな人に声をかけられた。
良い事も悪い事もいっぱいあったが、
僕にとっては全て人間がおこした事だと温かい気持ちになり納得ができる。
それが僕にとっての新宿だ。
そこは震災後もやっぱり変わらなかった。
即席のテーブルや即席のランプのもとでもやっぱり変わらなかった。
僕の知っているお姉さんの口癖は「あんたもオカマになっちゃえばいいのに」
テレビに出ていたお姉さんも言っていたが本当に言うのだ。
彼女達は強い。どんな時も冷静で頭がいい。
ユーモアの固まりの様な連中だ。
だから僕は彼女達が好きだ。
不安な人はオカマになれば良いのだ。