この道を忘れることはできません。
わたしが以前いわき市に住んでいたときのはなしです。
ある夏わたしはお金の使い方があまりよろしくなく
食べることに少しばかり困っていました。
そこで仲の良かった友人のEと一緒に毎日のように小名浜や四倉に
朝五時に起床し原チャリに乗って魚釣りのために海に行っていました。
多いときでは30匹以上の魚を釣り上げました。
もちろん釣った魚はその日の内に調理して食べます。
といっても醤油とみりんで煮付けにするくらいです。
レパートリーはそれしかありませんでした。
だけど飽きませんでした。
それで白いご飯がたくさん食べれればよかったのです。
ある日いつものように海にいったのですが
その日ばかりは大物を狙おうと2人で決めていました。
というわけで餌を違うものに変えようということになりました。
いつもはイソメというミミズみたいなやつでしたが
それでは釣れる魚が決まっているので
防波堤の小さな隙間や溝にいる蟹を使おうとしました。
蟹といっても2~3cmのものです。
なので友人Eとともに防波堤から身を乗り出すかたちで
蟹を素手で捕まえました。
思ったよりも手強くなかなか地面と引き離せないものでした。
わたしが苦戦をしていると突然ザバンという音とともに
海からシブキがあがり何かが沈んでいきました。
隣にいる人の姿がないので潜っていったのは友人です。
一体なんのために潜っていったのか
もしかして水面に巨大な魚影を目撃し素手でいったのか
などとわたしは本気でおもい爆笑してしまいました。
けれどわたしの予想はおおきくはずれ
地獄をみてきたような形相をした友人Eがバタバタもがいていました。
わたしは笑うのをやめ
手を差し出しおもいきり引っぱりあげました。
その日はなにも釣らずに帰りました。
帰り道
原チャリでまえを走っている友人EのTシャツから
風で振るい落とされる水をちょっとずつ浴びました。