殆ど連絡を取らなくなった人もいて、
声だけではなかなかわからない人もいた。
けれど一件だけ直ぐにわかった声があった。
「俺だけど・・・」
フン。
夜の扉をあけてどっかにいっちまった奴だった。
彼と出会ったのは20ぐらいの頃で、
まったく最初から最低の奴だった。
最低の奴だったけど、一緒に居たのだから更に最低だったのは僕の方かもしれない。
彼といると大概トラブルに巻き込まれるが、
何故か何もなかった様に過ぎて行く事が多かった。
そういう奴っているものだ。
僕は楽しかったし、
面白い経験を沢山させてもらった。
最低でも金の話しは別だ。
一度目に貸した時は何も思わなかったが、
二回目のときにはもうわかっていた。
だから三回目の時に
「金は返さなくていいから、これを受け取ったらもう僕の前から消えてくれ」
と伝え、彼は金を持って消えて行った。
借金取りから逃げて関西の方に行った。
二回目の時に関係のない僕まで散々な目にあった。
その時働いていたところにも迷惑をかけてしまった。
僕に取っては決断だった。
その彼から連絡があって、
二時間以上話しをした。
昔の話し何て一つもしなくて、
50年代や60年代のロックンロールの話しばかりだった。
まだ余震や原発で揺れる震災から二日後の夜だった。
震災から三週間が過ぎた頃、
僕宛に荷物が届いた。
その彼からだった。
開けると中には水が三本と封筒が入っていた。
封筒には金が入っていた。
僕がかした全額が入っていた。
短い手紙。
俺は変われないと思う。
同じ事をやると思う。
だけど今これをやっておかないと駄目な気がした。
金は友情をも壊すと、
僕は彼と別れた数年間ずっとわかった気になっていた。
けれど、僕はまだそんなに長く生きていない。
だからそれが壊れたかどうか何てわかるはずがなかった。
壊したのは金でも僕でも彼でもない。
しかしまた繋げたのは彼だった。
あの時の僕よりも強い決断で電話をかけてきてくれたのだ。
これが震災のお陰なんて言うもんか。
返してもらったお金で何か買おうかなと考えた。
せっかくだから長く残る様な物を買おう。
欲しかった革靴も良いな。
でも、
彼に金を貸してくれる相手がいなくなった時どうする?
だからこの金は彼が借りにきたときの為に残しておくことにした。
『ただの金』を貸したつもりが、
それにはいまじゃ金だけでは買えない物がついている。