2011年8月28日日曜日

「新しい天使」

(パウル・クレー「新しい天使」)

ナチの秘密警察に執拗に追われながら
パリでのアパートを目まぐるしく住み替えていた
批評家ヴァルター・ベンヤミン
ついにはスペイン国境で行く手を阻まれ服毒自殺?
しかしその間彼が片時たりとも身辺から離さなかった
小さな絵があるーーー
パウル・クレーの「新しい天使」

ーーーその複製を改めて眺めてみると
鼻梁は太く逞しく
眼は始原から終末を見わたすようにギロリと動き
すこし開いた唇から覗いている歯はいかにも鋭く
豊かにうねる頭髪からして
さながら獅子のよう

これは従来の天使と違い
神と獣の境界にいる新しいタイプの堕天使
ただ単一に悲劇的ではなく
シュルレアリストが愛好していた
ミノタウロス(ギリシア神話の、頭が牛で体が人の半獣神)の
諧謔性の血をひくかたわら
俺たちジンルイの
誤配だらけの歴史=物語を塗り変える
グノーシス的な隠れた神の眼光をも
引き継いでいる天使

神秘と諧謔?

というのも
実際には死んでいながら
おのれの死を自覚しない現代性(モデルニテ)の
〈死後の賑わい〉を
〈そのとおりに〉映す鏡になることほど
諧謔精神の肥やしになることはざらには無かろうし
「強風」に翼がお手上げ状態になりながらも
この世界との幾何学的な意味合いでの
〈捻じれ〉のコードの彼方にしか
救いを見出すことのない天使ほど
アマデウスの歌劇『魔笛』のなかでも響きわたっている
隠れた神の顕現に見合うものも
またと無いだろうから

しかし
この種の「新しい天使」は
いつでも〈余所者〉〈はぐれ者〉?

ちなみに
「新しい理性」の到来を描いたランボー
ーーーその「理性」もまた
クレーの天使と同じように
天国からの進歩という強風に煽られて
未来の廃墟に吹き飛ばされながら
おのれと周りの世界との
ガタピシ具合を
吐き捨てるように嘆いていたけれど:
ーーー「感じやすさが原因で
俺は一生を棒に振った」と。

言葉Y先生