高校生の頃のはなし
夏の夜
部活を終えて
小学校からの付き合いがある友達と
一緒に帰る為に
福島駅から「いい電(飯坂電車)」に乗った
19:00くらいだったと思う
その頃も福島の夜は暑かった
それなのに
満員だ...
ドアの近くに立っていたのに
発車時刻になるころには
真ん中まで押し込まれていた
電車の中は冷房をまんべんなく行き渡らせるため
天井にある扇風機がグルグル動いている
はやく出発してくれと願う
ようやく笛が鳴り
ドアが閉まる
すると一匹の
わりと大きな蛾が
駆け込み乗車してきたのだった
満員の電車の中で
乗客は自分を含め身動きはとれない
蛾は鮨詰めになって固まる人間に
いたずらをはじめる
誰かの顔の近くをすれすれで飛んでみたり
誰かの帽子の上で踊ってみたり
女の人の小さな悲鳴や男のうなり声が聞こえる
もちろん僕も友達も
眼をまんまるにし歯をくいしばって
一刻も早い状況の改善を祈っていた
害を与える虫ではないけど蛾は不気味だ
そんな祈りが通じたのか
いや通じなかったのか
蛾は遊覧をやめてバサバサと天井付近に上昇する
車内のみんなは顔を上げ
一匹の蛾の動向に釘付けになった
「そっちには行くな...」
(みんなの願い)
願いは虚しく
一匹の蛾は扇風機に吸い込まれた
あっという間に一匹の蛾は
バラバラ パサパサ
顔を上げていたみんなの顔に降り注いだ
誰かの眼に 誰かの髪に
僕の鼻に 友達の唇に
車内は静まりかえった みんな耐えている
次の瞬間電車がとまりドアが開いた
曽根田駅に到着
蛾の惨劇にあった一区画の乗客は全員降りた
ここでやっと悲鳴が聞こえる
それぞれ
身体についた蛾を振り払ったり
トイレに駆け込んだりだった
福島から曽根田までの
2分間の出来事である