2012年6月21日木曜日

Friend Fukushima the Tower ep3

episode 3
『記憶』

ある時に観た映画は
寝付くまでがストーリーの一部になる事がある。

映画館からの帰り道
そんな話しを友人Kが運転する車でしながら
深夜
僕らは僕の自宅へ向かっていた。

深夜の市内西道路
道路灯が過ぎて行く連続が美しい。
他の場所にもこうした灯りはあるのだろうが、
これだけの静けさにこの灯りはここの特別だと錯覚してしまいそうになる。
僕らはあの日以降、一瞬だけ特別になったが
この灯りが特別だったのはあの日のもっと前からずっとだ。

過ぎて行く灯りを追っていたらTowerが目に入った。
携帯を取り出し写真を撮った。
「何撮ったの?」
KはTowerの事を知らない。
この際だと、一瞬KにDの失踪とキノコの話しをしようかと思ったが止めた。
(あの話しもまた映画の一部かも知れない、
Dの恐怖が錯覚して作り上げた映画の一部かも知れない)
そんな風に思ってしまったからだ。
「いや、西道路の灯りって映画みたいだから、なんとなく...」
「ホントそうだね。ここだけ外国みたいだよ。でもあの日々を思うと、こうしてまた静けさが戻って灯りを見れるって幸せっていうか、
なんか凄いよね」
Kに嘘をついた様な気分になったが、安堵した。
Towerの話しをしないで済んだ...。
ちょうど携帯のバッテリーも切れて、更に安堵してしまった。
僕はやっぱりDの事をどこかで...頭のおかしい...いや、最低だ僕は。
写真はKの目に触れぬまま、車は静かな灯りを追い越して行った。

自宅に到着。
Kに別れを告げた。
部屋に戻り、さっき撮影したTowerの写真をさっそくSDからPCに取り込む。
すると、Towerの左下にオレンジの光が写っている事に気付いた。
「なんの光だ?」
そう呟いてはっとした...Dの言葉が頭をよぎる。
「Towerは赤く光るけど、一ヶ月に何回か、Towerの近くの建物もオレンジに光るんだ...まるで、Towerの赤い光に答える様に」
「まさか...」
僕はKに「あの時オレンジ色の光を見たか?」と聞こうと携帯を手に取った。
しかし...そうだ、携帯のバッテリーは無い。
携帯の充電器を探したが、どこにも無い。
何故だ?
Kの家に充電器を忘れたのかもしれない...。
自宅からかけるにも、Kの電話番号は覚えていない。
こんなことって...携帯が使えない。
不安だ。

子どもの頃に恐怖した映画の話しは尽きない。
その恐怖の一部分が果たして映画のストーリーだったのか、
寝付く前に自分の恐怖が作り上げたストーリーなのか...
大人になってその映画を見返して
「これがどうしてあの頃は怖かったのだろうか?」と...
よく、わからなくなってしまう。

Towerは現実に存在していて、そして今の僕は大人だが
「寝よう...寝て今日に区切りを付けよう」
しかしこの日、携帯と充電器の事が気になって、不安で
朝まで寝付くことができなかった。
この日観た映画は喜劇。
陽がのぼる頃
Towerとオレンジの光のことはすっかり忘れていた。