2012年11月1日木曜日

「羊でも一頭買ってみるかな」

羊でも一頭買ってみるかな。
すぐさま
そいつを海に抛り込むために。

おいおい いったい
何を云っているんだ?

他でもないさ、
16世紀フランスの物語作者ラブレーさんの
『パンタグリェル物語』のなかの
ハチャメチャ話が滅法気に入り
そのまね事をいくらかでもやってみたくて。

なに、なに、それはいったいどんな話だ?

パニュルジュという名の途轍もなく剽軽な男の話。
この男、トルコで危うく火あぶりにされそうになり
命からがら逃げてきた何とも〈チンケ〉な前歴の持ち主なのだが、
そのことでパンタグリュエルの父ガルガンチュアにいたく気に入られ、
家臣の一端に加えてもらえた奴。

ところがこの大変人のパニュルジュくんは
何と人並みに恋もするようで
パリの或る貴婦人にぞっこん惚れ込む。
だけれど奴が可笑しいことにも
ものすごく悩んだことは、結婚しても
自分が「コキュ(女房を寝取られ男)」になってしまうこと。

だが、しかし、悩み半ばであっさり振られ、
そのあと奴は婦人にどのような鬱憤晴らしをしたかというと、
さかりのついた牝犬子宮で作った媚薬を婦人に振りかけ、
辺の牡犬がわんわん押し寄せ
(作者ラブレーのきわめて細かい勘定では
締めて六十万十四匹だとさ)
婦人に御シッコをかけまくるというオマケ話までついている輩。

ま、あとはキリが無いので
奴についての数々のオフザケ話は端折っておくが
或る日のこと
航海に出たパンタグリュエルの船が
大海原で羊商人の船とすれ違ったとき、
商船のひとりの男が
「前開きのないズボン」をはいたパニュルジュの姿を目にして
「やあ〜い、やい、お前は女房を寝取られた野郎だろうが〜」と囃し立てると
血の巡りの六十万十四匹分迅速なパニュルジュくんは
即座に
仕返し!

いったいぜんたいどんな仕返し?

奴は商船から一頭の羊を買い取り、
何をするかと思いきや
それをいきなり海へ抛り込む。
するとたちまち
相手の船内は大大パニック。

羊は最初の一頭の動きに従う習癖(?)からして
商船内の羊の群が次から次へと海のなかへと跳び込みはじめ、
泡をくらった商人たちが必死になって羊の角や毛を掴みはするが、
彼らも一緒に海へ落ち込み、アップ、アップに。

そこで、パニュルジュ、
船べりから櫂を差し出してやりはするものの
それは商人たちを助けてやるためではなく、
彼らが船に這いあがるのを邪魔するためにて
彼はさらには持ち前の口達者をフル回転させ、
アップアップの商人たちを「激励」しつつ、
この世での苦難や悲惨や
あの世での利益と仕合わせ、
さらには、
死者が生者よりも仕合わせなんだぞということなどを
諄々(じゅんじゅん)と説いて聞かせる。

わっはのわっは。

そこで
この種の仰け反り話を梃にして申すとするなら、
〈俺(誰?)〉も含めてこの世の
「アゼラスト(笑いを忘れた奴ら)」ども・・・・・すなわち
この縞国の何処吹くそよ風の製痔蚊はんや
城蟻の缶漁どもや
二人羽織の額式幽死期者らや
短なる叩頭擬ジュツ者で
あらゆるテツガクをぐるぐる巻きに括弧にくくった
脳減る症受傷者はんや
メディア打ち股膏薬のヒョーロン歌どものなかから
どれでもいいから一頭買い取り
そいつを海にドボンとやれば、
奴らは次から次へと海へ落ちてくれるであろうか?

さあ、それはどうだか?

ともあれ
この〈俺(誰?)〉のまね事の
首尾よき未来の破綻に向けて
ここではひとまず祈っておくか、
南無〜。

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(註)「アゼラスト」とはラブレーの造語にて、
カーニバル的な大笑いを忘れた「御偉方」を指す。

言葉Y先生、写真K