---アンリ・ミショーの詩集『プリュムという男』の墓から---
〈その一〉
ひとがそこへ坐ってしまえば
その席は当然ながら空席ではなくなってしまう
ところがプリュムがそこへ坐っても
席は埋まったことにはならないようだ
× × ×
ひとの視線は空気かガラスを見るようにして
プリュムを透過する
ひとは坐っているプリュムのうえに
それと知らずにどたりと坐る
どんどん坐る
じゃんじゃか坐る
てんこ盛りに坐る
× × ×
空席の〈客〉でさえもないプリュムは
おのれが希薄な誤植であることを、
ガキの頃からよくわきまえていた
そしてその種の誤植にとっての
一方通行の世界からそっぽを向くための唯一の手立ては
筋の通ったバベル(混乱)を建て続けること・・・・・
〈その二〉
ーーーー竜安寺玄関屏風前での不意の間奏曲ーーーー
「雲關」なる大書のなかに留守が住む
× × ×
〈その三〉
いったい 何だ こりゃ 〈その二〉の間奏曲とやらは?
× × ×
〈その四〉
パリでの作家ボルヘスのアパートは
『砂の本』の〈無限のページ〉をつづる途上での
かつてのオスカー・ワイルドの住処であった
「それぞれの本はあらゆる本のなかへの挿入でもあるから」
という管見のもとに・・・・・
× × ×
つぶさに見ると
そのアパートの「入口」は「出口」であった
そんなことなど当たり前だわな?
いや いや その「出/入口」は
ギリシアの神々の技におとらず
なんとも手の込んだ迷路であった・・・・・と
〈私(?)〉のみならず
ドリアン・グレイの隠し子らしい白い獣の
ひそかな息に包まれながら
ボルヘスの「円環の廃墟」の語り手も
「安らぎと屈辱と恐怖を覚えつつ、
おのれもまた幻にすぎないし、
他者がおのれの夢を見ているのだと悟った」と
荘子の「夢」の「そのまた夢」を見つづけながら
(ここでは「胡蝶の夢」などとは云わないことに)
流砂の言葉で打ち明けていた・・・・・
× × ×
それから そうだわ
刑事らに街角で私刑に遭った〈今は亡き灰〉ヨーゼフ・Kと
何時でも何処でも無視されるプリュム(羽ペン)氏が軋みをたてながら
あらゆる一方通行への分岐路ごとにイレギュラーバウンドして曰く、
「円環の廃墟よ なお一段と虚ろにまわれ」 とも・・・・・(溶暗)
言葉Y先生、写真K